「ゲートキーパー立法」に反対する会長声明

投稿日時 【 2005年 11月 22日 】 | カテゴリ: 会長声明一覧

「ゲートキーパー立法」に反対する会長声明

 

 政府は,2005年11月17日,ゲートキーパー法案を2007年の通常国会に提出する方針を決定した。ゲートキーパーとは「門番」という意味であるが,マネーロンダリング又はテロ資金対策のため,弁護士などの専門職を,金融取引における「門番」と位置づけ,自分の依頼者にマネーロンダリング等を行っている者がいないかを監視させ,その「疑い」のあるときは,依頼者に秘密のままに通報しなければならないという義務をおわせる制度が作られようとしている。
しかし,弁護士に報告義務をおわせることには,看過できない重大な問題がある。
弁護士が,職務上知りえた秘密を守ることは,長い歴史の中で確立された,弁護士職の基本原理である。弁護士職の特色は,単に高度の法律的知識を要するというだけではなく,国家権力と一定の対抗関係に立ちつつ,依頼者の人権と法的利益を擁護することにある。そのために,弁護士は,政府から独立した専門家としての地位が保障され,職務上知りえた秘密を保持する権利を有し,依頼者に対しては高度な守秘義務をおうものとされている。これは,市民の側から見れば,「秘密のうちに弁護士と相談することのできる権利」が保障されているということにほかならない。弁護士の守秘義務は,依頼者の正当な権利の擁護を実行するために不可欠な制度であり,弁護士は,日々依頼者の正当な法的利益を守ることを通じて,社会正義の実現に貢献するものとされているのである。
しかしながら,「疑い」があれば当局に依頼者の秘密を密告することを義務付ける法制度のもとでは,依頼者が弁護士にすべての事実を正直に説明する上での障害を作り,ひいては弁護士が適切な助言を通じて依頼者の法からの逸脱を未然に防止することも困難となりかねない。また,「疑い」があるとして弁護士が通報したが,捜査の結果マネーロンダリング等と関係のないことが明らかになった事例が発生すれば,弁護士の裏切りによって依頼者を面倒に巻き込んだものとみなされ,弁護士制度に対する市民の信頼は地に墜ちることになりかねない。
そして,政府が準備しているゲートキーパー立法は,その対象を国際金融取引のような特殊な金融取引に限定するものではなく,150万円以上の不動産取引など一般市民がごく日常的に行っているような取引行為を広範に対象としている。さらに,政府は,金融情報機関(FIU)を金融庁から警察庁に移管する方針を決定し,「疑わしい取引」の報告先は警察庁が予定されている。ゲートキーパー立法がなされるならば,市民の正当な権利の擁護者として信頼されてきた弁護士が,依頼者の秘密を捜査機関に密告する捜査機関の手先という目で一般市民から見られることにすらなりかねず,市民一般に弁護士制度への不信をもたらし,ひいては,市民の法的サービスを受ける権利の行使すら萎縮させかねないものであって,その弊害は余りにも大きい。
もちろん,当会は,マネーロンダリング等の防止が重要であることは承知しており,弁護士がマネーロンダリング等に加担することは容認しない。マネーロンダリング等であることを知りながら,これに加担するようなことがあれば,弁護士倫理に反するものとして,懲戒処分の対象とされうる。日本弁護士連合会においても,マネーロンダリング等に関する研修を各地で行うなどして,会員の啓蒙に努めてきた。日本において弁護士がマネーロンダリング等に関与していることを示す事例報告がないことは法務省も認めているものであり,弁護士自治による規制を超えて,弁護士に政府への報告義務を課すことについての立法事実は認められない。
以上のとおり,弁護士の守秘義務は,弁護士制度存立の基盤をなすものであり,「疑わしい取引」について弁護士に報告義務を課すことは,弁護士と依頼者との信頼関係を根底から脅かし,弁護士制度の根幹をゆるがすものであり,到底,容認しえない。
よって,当会は,弁護士に報告義務を課すゲートキーパー立法に強く反対する。

 

2005年(平成17年)11月22日     

沖縄弁護士会                
会長  竹 下 勇 夫        
  






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