少年法等「改正」法案に対する反対声明
投稿日時:【 2005年 12月 14日 】    

少年法等「改正」法案に対する反対声明


 


 少年法等の一部を改正する法律案(以下,「改正案」という。)が,平成17年3月1日に閣議決定を経て国会に提出され,同年6月14日から衆議院での審議が始まった。その後,審議未了のまま衆議院が解散したため,法案の採決には至らなかったが,政府は,今後も,改正案の国会提出を予定している。


 この改正案は,①触法少年及びぐ犯少年に対する警察官の調査権限を法律上明記すること,②少年院送致年齢の下限を撤廃すること,③保護観察中の少年の遵守事項違反に対して施設収容処分を可能とすること,④国選付添人制度を検察官関与事件以外にも拡充することを骨子とするものである。


 このうち,④については,国選付添人が選任されうる対象が一定の重大事件に限定されている点で未だ十分なものとは言えないが,国選付添人制度を拡充すること自体は積極的に評価することができる。


 しかしながら,上記①ないし③については,児童福祉の機能を後退させ,保護観察制度の根幹を阻害する重大な問題があり,少年法の理念に反するものであるから,下記のとおり反対の意見を表明する。


 


1 触法少年及びぐ犯少年に対する警察官の調査権限の付与


 改正案は,触法少年及びぐ犯少年に対する警察官の調査権限を認め,新たに強制調査権限を認めている。


 しかし,重大事件を犯した触法少年の多くは,被虐待体験を含む複雑な生育歴を有しており,福祉的・教育的な観点から少年が非行に至る背景を探り,ケアをすることが必要である。しかるに,警察は,犯罪捜査をその職務とするものであり,少年の福祉や心理に関する専門性を有しない警察官による調査では,少年が非行を犯した背景や動機などその複雑な事実を解明することはできない。少年の措置に必要な事実の解明には少年心理の専門家のいる児童相談所による調査が適しているのである。


 また,少年に対する聴取は,少年の未熟さ,被暗示性,迎合生など少年の心理的特性に配慮して慎重に行う必要があり,とりわけ低年齢の少年については,その必要が特に大きい。しかしながら,現行法においても,警察官がこのような少年の特性に配慮することなく触法少年等に対する不適切な聴取を行い,虚偽の自白がなされるという冤罪事件が発生している。当会内においても,13歳の少年が警察の聴取に対し複数の放火を自白したが,架空の放火事件までも自白しており,送致された事実について,いずれも非行事実なしとして不処分とされた(那覇家裁平成16年9月29日決定)冤罪事件が発生している。このような状況下で,警察に調査権限を与えることは,今以上に虚偽自白を誘発し,真実発見が遠のいてしまうばかりか,少年に回復しがたい精神的な傷を残し,その更生を阻害するおそれすらある。


  この点,触法少年事件における児童相談所の調査能力が不十分であるとの指摘もあるが,実際に児童相談所による調査及び家庭裁判所の補充調査によっても事実解明に支障をきたした事例はまったく報告されていない。仮にこうした問題があるとすれば,児童相談所の人的物的資源を強化することによって対処すべきであり,警察官の権限を強化することは筋違いである。


 さらに,改正案は,ぐ犯少年である疑いのある者も調査対象としているが,そもそもぐ犯の定義があいまいであることからして警察による過度の介入を認めてしまうことになり,保護的・福祉的対応が後退させられてしまう。


 したがって,触法少年及びぐ犯少年に対して警察官の調査権限を付与することに反対である。




 



 



 




2 少年院送致年齢の下限の撤廃




 改正案は,少年院送致年齢の下限を撤廃し,法的には幼稚園児でさえも少年院に入院させることを可能にするものである。


 しかし,少年院は,閉鎖的施設において集団的規律訓練を中心とする矯正教育を行う矯正施設であるのに対し,14歳未満の少年が送致される児童自立支援施設は,開放的施設における家庭的環境のもとで,「育てなおし」を行う福祉施設である。低年齢で重大事件を犯した少年ほど幼少期からの被虐待体験など複雑な生育歴を有していることが多く,家庭的な雰囲気の中での「育てなおし」を行うことこそが必要なのであり,施設収容するならば児童自立支援施設での福祉的対応に委ねるべきである。   


  そもそも14歳未満の少年による事件の凶悪化ということは統計上認められず,厳罰(少年院送致)による非行抑止効果や児童自立支援施設送致では処遇困難であるとの立法事実も示されていない。個別の少年に応じたきめ細かい処遇をするためには,児童自立支援施設の人的物的資源をより一層強化することこそが重要なのである。


 したがって,少年院送致年齢の下限を撤廃することは,安易に閉鎖施設処遇・厳罰化を図るものであり,反対である。




 



 



 




3 保護観察中の少年の遵守事項違反に対する施設収容処分




 改正案は,保護観察中の少年について,遵守事項違反があった場合に,遵守事項違反を理由として家庭裁判所が少年院送致等の処分をすることができるとする。


 しかし,少年法は,人権保障及び適正手続保障の観点から,家庭裁判所が審判権を発動できる範囲を限定しているのであり,ぐ犯事由にも該当しない遵守事項違反をとらえて少年院等に送致することは,上記少年法の趣旨に反する。また,新たな非行事実なく遵守事項違反のみで現に保護観察処分を受けている少年を少年院等に送致することは,少年を「二重の危険」にさらすものであり,許されない。 


  そもそも保護観察は,保護観察官や保護司が少年との信頼関係を形成しつつ,ケースワークを行いながら,少年自ら立ち直る力を育て,少年の改善更生を図ることに主眼がある。ところが,改正案は,「少年院送致もありうる」という威嚇によって遵守事項を守るよう少年に求めるものであり,少年との信頼関係の構築を困難にし,少年の自律的更生を阻害する。


 保護司が対応に苦慮するような少年に対しては,保護観察官により専門的な見地からの指導によって対処すべきであり,少年が将来犯罪を犯すおそれがある場合には,犯罪者予防更生法42条1項のぐ犯通告制度を活用すれ問題ない。現行の保護観察制度に問題があるならば,現行制度の実効性を確保すべく保護観察官の増員や適切な保護司の確保といった方策が実施されるべきであり,少年と保護司の信頼関係の破綻をもたらすような制度を創設すべきではない。


 したがって,保護観察中の少年について,遵守事項違反があった場合に,遵守事項違反を理由として家庭裁判所が少年院送致等の処分をすることができるとすることにも反対である。




 



 



 




  以上のとおり,改正案は,少年に対する福祉的・教育的対応を大きく後退させるものであり,少年司法制度の根本理念に反するものであるため,強く反対する。






 



 



 




  2005年(平成17年)12月14日






 



 



 




沖縄弁護士会          




会 長  竹 下 勇 夫   

 
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