連鎖販売取引における被害防止に関する規制強化を求める意見書
投稿日時:【 2021年 03月 29日 】    

連鎖販売取引における被害防止に関する規制強化を求める意見書

令和3年3月29日
沖縄弁護士会

第1 意見の趣旨
   国は、連鎖販売取引における被害を防止するため、特定商取引に関する法律(以下「特定商取引法」という。)について、以下のとおり改正を行うべきである。
1 概要書面・契約書面の記載事項の追加
  特定商取引法及び同法施行規則を改正し、連鎖販売取引に伴う特定負担についての契約を締結するまでに交付すべき概要書面(特定商取引法第37条第1項)及び連鎖販売取引についての契約を締結した場合に交付すべき契約書面(同条第2項)につき、次のものを記載事項として追加すべきである。
(1)統括者(特定商取引法第33条第2項)がその統括する連鎖販売業を開始した年月
(2)最近3事業年度における①事業年度ごとの連鎖販売契約(特定商取引法第37条第2項)の契約者(加入者)及び解除者(退会者)の数、②事業年度末の連鎖販売加入者の数
(3)最近3事業年度における連鎖販売契約についての、①商品又は権利の種類ごとの契約の件数・数量・金額、②役務の種類ごとの契約の件数及び金額
(4)最近3事業年度において連鎖販売加入者が収受した特定利益(年収)の平均額
2 特定負担についての契約を締結する者の説明義務
特定商取引法を改正して、連鎖販売業を行う者(連鎖販売業を行う者以外の者がその連鎖販売業に係る連鎖販売取引に伴う特定負担についての契約を締結する者であるときは、その者)は、連鎖販売取引に伴う特定負担をしようとする者(その連鎖販売業に係る商品の販売若しくはそのあっせん又は役務の提供若しくはそのあっせんを店舗等によらないで行う個人に限る。)とその特定負担についての契約を締結するまでに、その者に対し、次に掲げる事項について説明しなければならないものとするべきである。
(1) 収受し得る特定利益の計算の方法
(2) 特定利益の全部又は一部が支払われないこととなる場合があるときは、その条件
(3) 最近3事業年度において連鎖販売加入者が収受した特定利益(年収)の平均金額
(4) 連鎖販売契約を行う者その他の者の業務又は財産状況や特定利益の支払の条件が満たされない場合などにより、特定負担の額を超える特定利益を得られないおそれがある旨
3 22歳以下の者との間の連鎖販売取引の禁止と民事効
22歳以下の者との間で連鎖販売取引を行うことを禁止すべきである。また、これに違反した場合、特定商取引法第3章における行政処分の対象とするとともに、連鎖販売加入者のうち、20歳(2022年4月1日に予定されている成年年齢引下げ後は18歳)から22歳までの若年者については、当該契約の申込み又はその承諾の意思表示を取り消すことができるものとすべきである。
4 利益収受型物品・役務の取引等に関する連鎖販売取引の禁止と民事効
金融商品まがいの取引、商品預託取引、投資用DVD・ソフト、仮想通貨投資等の利益収受型物品又は役務の取引に関する連鎖販売取引を行うことを禁止すべきである。また、これに違反した場合、特定商取引法第3章における行政処分の対象とするとともに、連鎖販売加入者は当該契約の申込み又はその承諾の意思表示を取り消すことができるものとすべきである。
5 借入金又はクレジット等による連鎖販売取引の勧誘の禁止と民事効
特定負担の支払方法につき借入金、クレジット等の与信(返済までの期間が2か月を超えない場合を含む。)を利用する連鎖販売取引の勧誘を行うことを禁止すべきである。また、これに違反した場合、特定商取引法第3章における行政処分の対象にするとともに、連鎖販売加入者は当該契約の申込み又はその承諾の意思表示を取り消すことができるものとすべきである。
6 適格消費者団体の差止請求権の拡充
前記第3項から第5項において提案する取消権の対象となる各違反行為を、特定商取引法第58条の21に定める適格消費者団体の差止請求権の対象に追加すべきである。また、当該違反行為が一旦中止された場合であっても、再開されるおそれが認められるときは、差止請求が可能であることを明示すべきである。

第2 意見の理由
1 マルチ取引被害の現状
 (1)全国の状況
 消費生活センターによせられる連鎖販売等のマルチ取引に関する近年の相談件数は、毎年1万件強となっており、20歳代の若年者からの相談が増加傾向にある [1]。2018年度においては、商品に関するマルチ取引の相談件数5,036件のうち20歳代からの相談は、1,945件(38.6%)、役務に関する相談件数5,490件のうち20歳代からの相談は2,288件(41.7%)を占めている[2]。
 最近のマルチ取引は、従来主流であった健康食品や化粧品等の物品の販売よりも、各種の投資取引、アフィリエイト等の副業、暗号資産(仮想通貨)等の利益収受型の物品・役務等を対象とする、いわゆる「モノなしマルチ商法」が多くなっており、インターネットやSNSの利用も背景となって特に若年者にそうした傾向が顕著である[3]。
(2)沖縄県の状況
ア 相談件数等
沖縄県においても、マルチ取引に関する相談件数は、2015年度109件、2016年度132件、2017年度116件、2018年度69件、2019年度100件となっており、2018年度にやや減少したものの基本的に100件台が続いている[4]。特殊な販売購入形態のうち、訪問販売や電話勧誘販売の件数が減少する一方で、マルチ取引については減少の傾向が見られない。
また、沖縄県において、2019年度は、マルチ取引における相談の中で投資商品に関するものが最も多く、他の物品・役務の件数の3倍以上であった[5]。
沖縄県は親族や友人関係が濃い地域であり、マルチ商法が広がりやすいと指摘されている。人間関係を壊したくないがゆえに断れない者や勧誘者を信頼しきってしまう者が多いものと考えられる。連鎖販売取引とは異なるが、持続化給付金の不正受給者の数が短期間で拡大していることからも、リスクのある「うまい話」が人づてに広がりやすい面があることが窺える。
イ 若年者の被害について
 2017年には、沖縄県内において、大学生などの20代の多くの若者が被害を受けた「名義貸し事件」が発生した。この事件も、大学内や地域の人間関係の繋がりを通じて、被害が拡大したものである。
同事件では、多数の若者が、「事業への投資で資金集めをしており、借り入れた金を預けると報酬がもらえる」等と勧誘され、勧誘元へ貸金業者等から借り入れた金銭を預けたり、キャッシングカードをそのまま預けたりしたが、途中で勧誘元の返済が滞り、残額について貸金業者等への返済義務を負うこととなってしまったものであり、県内の500人以上の若者が被害を受けた。
当該勧誘行為は、大学内の先輩後輩の関係等を通じ、SNSの利用も相俟ってマルチ的に広がった(勧誘元へ新たな取引者を紹介した場合、紹介料が発生する仕組みとなっていた)。近しい者からの儲け話に対して、その危険性について十分に認識・検討できないまま契約を締結してしまうという傾向が顕著に表れた事件であり、沖縄県内に衝撃を与えたものである。
 また、2019年には、県内の高校生の間で仮想通貨の投資話が広がっていたことが発覚したが、これについても、SNSでの情報や先輩からの声かけ、同級生・知人等の声かけで広がったものであった[6]。県教育庁が緊急に調査したところ、勧誘を受けた生徒がいる学校は30校で、勧誘を受けた生徒数は134名にも上った。
 このように、沖縄県においても、SNS等の利用により、若年者の間でマルチ商法及びマルチまがい商法による勧誘行為が広がっている。
3 提言
 (1)概要書面・契約書面の記載事項の追加、特定負担の説明義務
連鎖販売契約は、連鎖販売組織に加入することで当該加入者及び他の構成員の販売活動により利益を収受することを目的とした投資取引の一種と考えることができる。
そうであれば、投資対象である事業の概要、特に加入者数・退会者数・売上高などの推移や加入者が収受した特定利益の金額等の概要を開示すべきである。
また、連鎖販売取引は、その特質上、親しい者から勧誘において「必ず儲かる」などの不実告知・断定的判断の提供といった不当勧誘が行われ、簡単に収入が得られると誤認して契約を締結する者が少なくない。そうした不当勧誘や誤認に基づく被害防止のため、連鎖販売取引に伴う特定負担についての契約を締結しようとする者に対し、少なくとも上記第1の2記載の事項について説明すべきである。
(2)22歳以下の者との間の連鎖販売取引の禁止と民事効
近年は、未成年者と比較して、成年して間もない若年成人の消費者相談が多く、その契約金額も高額になる傾向がある。また、契約する商品・サービスについても、「サイドビジネス」や「マルチ取引」に関するものが上位となっており、社会経験が乏しい若年者を狙い撃ちする悪質な事業者の存在も指摘されている[7]。
沖縄県でも、2019年度は、19際以下の未成年からの相談は、739件であるのに対し、20代からの相談は2,488件となっている。さらに、相談者のうち、17歳以下の平均契約取引額が16万8183円、18~19歳が18万5,533円であるのに対し、20代の平均取引額は50万4,418円と高額となっている[8]。
また、日本の高等学校卒業者に占める大学、短期大学及び専門学校への進学率は約71.1%に及んでおり[9]、20代には、学業に従事しているため就業していない若年者が多く存在している。このような若年者が社会経験の乏しいままマルチ取引に誘い込まれて多額の債務を抱える事例も多く報告されている。 多額の債務を負った学生が更に追い詰められれば学校を退学したり、あるいは勧誘する側に回って学校から懲戒処分を受けたりといった深刻な事態にも至りかねない。
こうした若年者のマルチ取引では、学校の同級生や先輩、職場の同僚など親しい者や目上の者から勧誘されたり、インターネットやSNS等で知り合った者から飲食やセミナーに誘われたりするなどして、儲け話を持ち掛けられるケースが多い[10]。しかも、前述のとおり、新規加入者が後続の加入者を順次勧誘するという特性を持つマルチ取引において、新規加入者が自分の受けた説明内容を理解しないまま、「必ず儲かる」などの不実告知や断定的判断の提供、長時間の説得などといった不当な勧誘が行われやすい。
したがって、少なくとも22歳以下の者との間においては、連鎖販売取引を行うこと自体を適合性原則に違反する具体的な類型として禁止すべきである。
さらに、規制の実効性と被害救済の観点から、この禁止に違反した場合、特定商取引法第3章における行政処分の対象とするとともに、社会生活上の経験不足に乗じた幻惑的な取引の勧誘により困惑状態で契約締結に至る類型(消費者契約法第4条第3項第3号以下参照)に準じて、連鎖販売加入者は当該契約の申込み又はその承諾の意思表示を取り消すことができるものとすべきである。
(3)利益収受型物品・役務の取引等に関する連鎖販売取引の禁止と民事効
健康磁気治療器等の販売預託取引を展開して破綻したジャパンライフ事件(2018年3月破産手続開始決定)や、テレビ電話用アプリケーションの販売預託取引を展開したWILL事件(2019年7月業務停止命令)は、 連鎖販売取引の仕組みを用いた勧誘活動により大規模被害に発展した。
若年者を対象とする連鎖販売取引では、投資用DVDや投資用ソフトの販売など高い収入が得られると称する物品・役務を販売するケースが多く見られる。
前述のように、沖縄県においても、2019年度は、マルチ取引における相談で最も件数が多い取引は投資商品であり、「名義貸し事件」や高校生の仮想通貨の問題も、投資話や仮想通貨について勧誘がなされている。
金融商品まがいの取引、現物まがいの商品預託取引、投資関連の情報商材等の利益収受型物品・役務の取引においては、勧誘する者がその仕組みやリスクについて正確かつ十分な説明を行う義務を負うべきであるが、鎖販売取引において、勧誘された新規加入者がさらに勧誘を行う際に、かかる説明義務を十分に果たせるとは考え難い。
また、友人・知人等の親しい物からの勧誘の場合は、「必ず儲かる」などの不実告知や断的判断の提供といった不当な勧誘が行われやすいことから、被勧誘者の冷静な投資判断を妨げるおそれも大きい。
しかも、近年、若年者を中心に広がっている「モノなしマルチ商法」では、各種の事業、不動産、暗号資産(仮想通貨)等への投資などによって儲かると勧誘されるが、事業者の実態や連絡先が分からない、連絡手段がメール等に限られるなど、一度被害に遭ってしまうとその回復は困難な場合が多い。また、特定負担を伴う契約を締結させた後に、新規加入者を獲得することによって利益が得られると告げてマルチ取引に誘い込む、いわゆる「後出しマルチ」と呼ばれる事例も出現している。
このように、利益収受型物品・役務の取引に関する連鎖販売取引は、販売目的物と販売システムによる二重の利益が収受し得るとする仕組みの性質上、そもそも適正なリスク告知がなされることが想定困難であり、構造的に見て誤認を招く販売方法である。実際にも、利益収受型物品・役務の取引に関する連鎖販売取引により深刻な被害を多数発生させている状況に鑑みれば、その取引を行うこと自体を禁止すべきである。さらに、規制の実効性と被害救済の観点から、この禁止に違反した取引を行った場合、特定商取引法第3章における行政処分の対象とするとともに、連鎖販売加入者は当該契約の申込み又はその承諾の意思表示を取り消すことができるものとすべきである。
(4)借入金、クレジット等による連鎖販売取引の勧誘の禁止と民亊効
マルチ取引の勧誘に際し、消費者金融や学生ローンから借入れをさせて購入代金を支払わせるケース、クレジットで購入させられるケースなどが見受けられる[11]。
 前述の「名義貸し事件」においても、若年者がターゲットとなり、貸金業者で借り入れをさせて、その金銭を預けさせていた。
資金がない者が、借入金やクレジット等によってマルチ取引を行う場合、期待した利益が得られなければ、被勧誘者が多額の負債を抱えるなどのリスクが大きい。また、借入金の返済やクレジット利用代金の支払に窮した被勧誘者が利益を得、又は損害を回避するために友人や親族などに対して無理な勧誘を行うことも予想され、周囲との人間関係を決定的に破壊してしまうことにもなり得るものである。
 そこで、特定負担の支払方法に借入金、クレジット等の与信を利用する連鎖販売取引に伴う契約を勧誘する行為は、若年者に対するものに限らず、特定商取引法第34条に規定する禁止行為に新たに加えることなどによって禁止すべきである。そして、これに違反した場合、特定商取引法第3章における行政処分の対象とするとともに、借入金等によって特定負担を支払って契約しても返済額を上回る利益が確実に得られるかのような断定的判断の提供がなされることが強く推認される点で、構造的に誤認を招く販売方法であることや、規制の実効性と被害救済の観点から、連鎖販売加入者は当該契約の申込み又はその承諾の意思表示を取り消すことができるものとすべきである。
ここでいう「与信」とは、手持ちの資金がない者を儲け話で射幸心をあおり、借入金やクレジット等によるマルチ取引へと誘引する行為を禁止する趣旨から、割賦販売法が適用されない返済までの期間が2か月を超えない支払方法なども含め、負債が発生するような資金調達手段による取引全てを対象とすべきである。
(5)適格消費者団体の差止請求権の拡充
適格消費者団体の差止請求権は、消費者庁や都道府県による法執行の補完的機能を担っているものであるが、都道府県の行政処分の効力が当該都道府県に限定されるのに対し、適格消費者団体の差止請求は全国的に効果を及ぼし得る。
したがって、全国的に発生するマルチ取引による被害を防止するためにも、適格消費者団体の差止請求権の対象が拡充されるべきであり、統括者、勧誘者又は一般連鎖販売業者が、意見の趣旨第3項から第5項までにおいて提案している取消権の対象となる各行為を現に行い又は行うおそれがあるときは、適格消費者団体において差止請求ができるものとすべきである。
なお、現行法上、連鎖販売取引に係る差止請求権を規定している特定商取 引法第58条の21は、差止対象行為を「不特定かつ多数の者に対して(中略)現に行い又は行うおそれがある」ことを差止請求の要件としているところ、当該違反行為が一旦中止された場合であってもその前後の状況などから再開されるおそれがあると認められるときは、これを防止して消費者の利益を保護するために差止請求が可能であることを明文で規定すべきである。


以 上


 

[1] 国民生活センター「PIO-NETにみる2019年度の消費生活相談の概要」7頁。
[2]  国民生活センター「友だちから誘われても断れますか?若者に広がる『モノなしマルチ商法』に注意!」(2019年7月25日)6頁・表2。
[3]国民生活センター「友だちから誘われても断れますか?若者に広がる『モノなしマルチ商法』に注意!」(2019年7月25日)1頁、3頁。
[4]沖縄県消費生活センター「平成31年度(令和元年度)消費生活相談の概要について」(5頁・別添資料6頁表11)。
[5]同(5頁・別添資料7頁表12(3))。
[6]沖縄県消費生活センター「県内の高校で仮想通貨(暗号資産)の投資話が広がっています。注意!」https://www.pref.okinawa.jp/site/kodomo/seikatsu_center/20191120001.html
 

[7]  国民生活センター「成人になると巻き込まれやすくなる消費者トラブル-きっぱり断ることも勇気!-」(2016年10月27日)1頁。東京都消費生活総合センター「『若年層(18~24歳)』の消費生活相談の概要」(2020年1月31日)11頁。

[8]  沖縄県消費生活センター「平成31年度(令和元年度)消費生活相談の概要について」(10頁・別添資料6頁表19、20)。

[9]文部科学省「令和元年度学校基本調査(確定値)の公表について」(2019年12月25日)4頁。

[10]国民生活センター「友だちから誘われても断れますか?若者に広がる『モノなしマルチ商法』に注意!」(2019年7月25日)3頁。
[11]  国民生活センター「友だちから誘われても断れますか?若者に広がる『モノなしマルチ商法』に注意!」(2019年7月25日)3頁。国民生活センター「相談急増!大学生に借金をさせて高額な投資用DVDを購入させるトラブル」(2014年5月8日)3頁。東京都消費生活総合センター「『若年層(18~24歳)』の消費生活相談の概要」(2020年1月31日)3~4頁。

 

 
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