特定商取引法および特定商品預託法における契約書面等の電子化による交付に反対する会長声明
投稿日時:【 2021年 03月 08日 】    

特定商取引法および特定商品預託法における契約書面等の電子化による交付に反対する会長声明

 

  当会は、以下の理由により、特定商取引に関する法律(以下「特商法」という。)及び特定商品の預託等取引に関する法律(以下「預託法」という。)で規定された契約書面および概要書面(以下「契約書面等」という。)の交付義務について、電子化による交付を認める法改正に反対する。

 

 

 1 消費者庁は,令和2年11月9日に開催された内閣府規制改革推進会議第3回成長戦略ワーキング・グループにおいて,特商法の特定継続的役務提供に関する契約書面等の交付義務につき,「電磁的方法による送付を希望しない又は受領できない消費者の利益の確保の方法や電磁的方法により送付した場合のクーリング・オフの期間の起算点等を整理したうえで,デジタル化を促進する方向で,適切に検討を進めてまいりたい。」と回答している。

また,令和3年1月14日に開催された消費者委員会本会議において,同庁は,「特定継続的役務提供に加え,訪問販売等の特定商取引法の各取引類型及び預託法において消費者の承諾を得た場合に限り,電磁的方法により交付することを可能にする」として、法改正の方針を示した。


2 しかし、特商法及び預託法において契約書面等の交付義務が規定された趣旨は、消費者に対する情報提供ならびに証拠確保を図ることにある。すなわち、情報収集力において事業者と格差のある消費者に対して、正確な情報を提供する義務を事業者に負わせると共に、消費者が契約内容を的確に把握し、かつ事後対応を取りうる証拠を確保できるようにするものである。

特に、クーリング・オフ権の行使の是非等、契約の維持解消の判断をするための前提となる適正な情報を得て、消費者が冷静に契約を考え直す機会をもつためには、かかる契約書面等の交付義務は重要な意義を有している。


3 前記の交付義務の意義からみると、現行法での契約書面等では内容が数枚の書面に記載され、一覧性が高いために重要な記載事項を消費者が確認し、内容を把握することは容易である。また、現行法上、クーリング・オフ制度については、書面上も赤字・赤枠・8ポイント以上の活字で中途解約権の要件と効果を具体的に記載しなければならないとされており、積極的に消費者に対してかかる権利告知が図られている。

しかし、契約書面等の交付が電子化されたものの交付で足りることになると、使用される電子機器(特にスマートフォン)は通常画面が小さく、紙面の契約書に比して一覧性が劣るため、契約内容を確認するためには消費者側が拡大表示の操作等を積極的に行う必要がある。また、紙面と異なり、クーリング・オフ制度の規定でも(無操作状態で)8ポイント以上の大きさを確保することは難しく、仮にこれを印刷しようとしても消費者側では困難な場合が多い。すなわち、電子化による一覧性の低下により、消費者が契約の重要事項や特にクーリング・オフなどの権利の存在やその行使条件を見落としてしまう危険を避けられない。


4 この点、消費者庁は、電子化による交付について消費者の事前の承諾を要件としており、これにより上記の弊害を防げると考えているようである。

  しかしながら、仮に事前の承諾を要件としても、すべての消費者が契約時に契約書面等の意義・重要性を十分認識しているとはいえないため、電子化による交付に承諾した者が上記の弊害を適切に回避できるとは必ずしもいえない。むしろ、ウェブサイト画面での契約申込みでは、入力画面であらかじめ「承諾する」にチェックを入れられている場合や、そうでなくても他の項目に紛れてしまい、深く考えずに承諾にチェックすることが往々にしてありえることから、承諾の要件自体が形骸化する危険性もある。

  よって、電子化にあたり消費者による事前承諾を要件としても、契約書面等の交付義務を現行法が規定した趣旨を図るには不十分である。


5 特商法および預託法における契約書面等の交付義務は、消費者保護のための制度として重大な意義を有している。かかる書面交付について電子化を進めることは、消費者に対する情報提供や証拠確保といった消費者保護の理念を没却しかねない。

 

             2021年(令和3年)3月8日

             沖縄弁護士会

             会 長  村 上 尚 子

 

 

 
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